ディズニーの魔法の成分

東京ディズニーランドが40周年ということは、私が働いていたのはもう15年くらい前のことになります。 それでも未だに違和感を覚えてしまうのは、街中で会社から貸与された制服やユニフォーム姿で歩いている方を見た時です。
もちろんその方は何も悪いことはしていないのですが、不思議なもので、植え付けられた習慣というのはなかなかどうして抜けないものです。

というのも、ディズニーランドには「夢と魔法の王国」を守るために様々なルールが設けられていますが、中でもキャストが一番大事にしている〝5つの鍵〟【SCISE】にその違和感の理由があります。

この5つの鍵はキャストの行動規準になっており、業務上判断に悩む時は、これらの頭文字の順に対応する事となっています。

S…Safety (安全)
C…Courtesy (礼儀正しさ)
I…Inclusion (インクルージョン)
S…Show (ショー)
E…Efficiency (効率)

元々は【SCSE】の4つの鍵だったのですが、真ん中に新たに加わった「I…インクルージョン」は、多様性の尊重という意味合いがあるそうです。
全ての鍵の中心に存在し、順番ではなく他の4つの鍵に深く関わるものとされています。しかし原点である【SCSE】は、上から順に優先的に遵守するものなのです。

話を戻しましょう。
東京ディズニーリゾートでは、「キャストがエリアを跨ぐ行為」が禁止されています。
これはどういうことかというと、トゥモローランドのエリアで働いているキャストが、ワールドバザールのエリアへコスチュームのまま入ってはいけないということです。

理由は単純で、宇宙と未来のエリアの格好をしているキャストが、20世紀初頭のアメリカの街並みに現れたらおかしいですよね。
これは、ディズニーが大切にしている鍵のうちの、「ショー」が守られていないことになります。

なので、エリアを跨ぐような横断はしないようにと教えられているのですが、では目の前に迷子の子供がいて、手を繋いで親御さんを一緒に探すような場合はどうでしょう。
この場合も、エリアを跨いではいけないので決められた範囲しか一緒に探すことはできないのかというと、もちろんそんな事はありません。

「ショー」よりも何よりも、一番上に存在しているのは「安全」です。
迷子の子供が、心配している親御さんの元へ無事に帰ることができることこそ、最重要項目ですから、こういった場合は、エリアに関係なく子供に寄り添った行動が求められます。

そんなわけで、職場から離れて制服やユニフォーム姿で街中を歩いている方を見ると、 「何かあったのか!?」 と未だに条件反射でドキッとしてしまうというわけです。
それほどまでに深く根を張った働く人の行動規準が、何年経っても魔法の成分の源になっていることを思い起こさせてくれます。


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川崎 真衣
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