猛暑が和(やわら)いでくると、高い空には「うろこ雲」や「ちぎれ雲」が漂って、心なしか秋の気配を感じるようになる。
やんばるの森では、セミの鳴き声が小さくなる一方で「やんばるクイナ」の鳴き声が澄んだ空気の中で、一層かん高く響いていた。
クイナの鳴き声を身近に聞ける安波(あは:国頭村)は、川幅の広い安波川で隔てられ、さらに急斜面地に家が建ち並び、石畳の路と石垣の塀で囲まれた砦(とりで)のような特徴ある集落である。
橋が架かって便利になって、茅葺(かやぶき)屋根は赤瓦屋根やコンクリート造りへと変化したが、集落の面影は昔のまま残っている。
斜面地の集落を登り切ったところに、松林に囲まれた海が見える平場がある。
そこは「安波節(沖縄民謡の代表作:安波ぬまはんたや 肝(ちむ)すがり所 宇久ぬ松下や 寝なし所)」の発祥の地である。
「安波集落の端っこには若い男女が心おきなく憩う場所があり、奥の松林は夜を明かす所である」という意味で、沖縄各地にあった「毛遊びー」の場所だった。活気のあった安波は、過疎化の進行(2024年3月:154人)とともに弾き語りが出来る人は一人だそうだ。
松風の音とクイナの声が、秋色の安波集落に虚しく聞こえていた。
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