
数年前のうりずんの季節、とある公演で私は一人の女性舞踊家の凛とした力強い舞に目を奪われた。
今回は琉球舞踊・宮城美能留流に所属し、初代・宮城美能留が築いた流儀を、叔母・宮城早苗氏と母・宮城園美氏から受け継ぎ、三代目として活躍する宮城愛佳さんにお話を伺った。(写真中央:京太郎を踊る宮城氏)
日常に宿る美——
幼い頃、舞台袖から見た踊りの美しさに胸を打たれ、曽祖父の代から続く芸能の世界に自然と心を惹かれていった。
それが宮城氏をこの道へと導いた原点だ。彼女にとって琉球舞踊は特別な「習い事」ではない。暮らしの中に根付いてきたものだ。
美能留流の魅力は「なより(しなやかな動き)」や「がまく使い(腰の使い方)」にある。緩急のある動きは表現の幅を広げ、優雅さの中に芯の強さが息づき、観客を惹きつける。
師匠からの教えに「芸の前に礼儀あり」という言葉がある。身体のつくりや感覚の違いは人によって異なるが、所作の美しさは日頃の仕草や行いに宿り、芸にすべて表れる。
そのため普段から所作や心のあり方を大切にし、自分を高めることが何よりも大事だという。
舞台裏の静かで深い時間——
琉球舞踊は動きの美しさだけでなく、歌の意味に寄り添う表現力が求められる。
技を磨く日々は時に苦しい。頭では理解しても身体が応えてくれないこともある。
それでも宮城氏は「続けることでしか見えない景色がある。見る人の心に届いてはじめて踊りが生きる。」と語る。
話題の芸道映画『国宝』との出会いも彼女に改めて「人の心を動かす芸とは何か」を問い直すきっかけとなった。厳しさの中にある愛情、それを受け継ぐ覚悟。
それは祖父・宮城美能留氏の「魂が魂を呼び、心が心を打つ」という言葉を思い出させた。52歳で他界した祖父から直接芸を教わることは叶わなかったが、その魂は流派にしっかり受け継がれている。
伝統をつなぐ——
宮城氏は今後さらに表現を深め、組踊にも挑戦したい。琉球舞踊を広く届けたい気持ちも変わらない。
一方で、舞踊に触れる機会が少ないことや継承の難しさを感じ、ウチナーンチュが誇りをもって伝統芸能に触れられる環境が広がることを願う。
先人たちの礼節や姿勢に触れるたび、舞踊は技術だけでなく「人の在り方」を伝える芸であると気づいた。それを次世代へつなぐことが自分にできる伝え方だと宮城氏は語る。
伝統とは技だけでなく生き方にもつながっている。宮城氏の挑戦にこれからも注目したい。

【公演情報】
宮城美能留流 二代目宮城園美 独演会
会 場: 国立劇場おきなわ 大劇場
日 時:令和8年3月7日(土) 14時開演(13時30分開場)
【公演お問い合せ】
電話: 080-6548-1371(宮城)
チケット購入サイト:https://livepocket.jp/e/minoruryu
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