
毎年のことですが、このシーズンの原稿を書くのは、真夏にコタツに入ってお鍋を囲む絵を想像するくらいイメージしにくいものです。
しかし、この季節の舞浜といえば…と想像すると、吸い込む空気が一段と冷たくなり、動いていないと手足がかじかんで笑顔を保つことが大変だったことが、すぐさま蘇ってきます。
特にクリスマスソングが東京ディズニーランドを包み込んでいるこの時期の記憶は鮮明です。
町頭上から降り注いでくるワールドバザールのクリスマス・キャロル。
厳しい寒さのせいで素敵な音楽すら疎ましく感じてしまいそうになる瞬間、ゲストの煌めく笑顔とその音楽が重なり、ハッと初心にかえることができる。私にとってそれは、幾度となく救われた輝かしい冬の記憶です。
そんな私の心を温めてくれたBGMですが、実はエリアのテーマに合わせて、それぞれ異なった雰囲気のものが流れています。ゲストが入園するメインエントランスから、最初のお土産屋さんのエリアであるワールドバザールまでは、ヴィクトリア朝のクラシカルで華やかなクリスマス・キャロル。誰もが一度は耳にしたことのある、思わず口ずさんだり、スキップしたりしたくなるような、王道のクリスマスソングです。
そのワールドバザールの十字路を左に曲がると、熱帯地方の植物が顔をのぞかせるアドベンチャーランドへと続いています。
巨大なガラス屋根で守られていたワールドバザールから完全に空の下へ出ると、「あぁ寒いっ!」と冷えた空気を全身で思い出します。しかし、目を細めながら歩みを進めていくと、気がつけば音楽がアメリカ南部のニューオーリンズ・ジャズへと変わっていることにドキドキするのです。
先ほどまでの正統派キャロルから、アメリカ南部の陽気なジャズのクリスマスソングへ。ジャンルが全く異なるのに、決して不協和音にはなりません。
通常、エリアの境界線には、滝などの水音を利用して世界観を区切る“マスキング〟という手法が用いられますが、この場所には水場が存在しません。ではどうやって音を区切っているのかというと、それは「屋根の有無による空間の響きの変化」です。
ワールドバザールのガラス屋根の下での豊かな反響音が、外に出た瞬間にリセットされる。この物理的な変化を利用することで、全く異なるジャンルの音楽を違和感なく繋ぎ、新たな物語へとゲストを誘っているのです。
クリスマスの美しいイルミネーションという目に見えるものだけではなく、空間の響きすらも計算し尽くした「音の境界線」。こういった細かな工夫によって、ゲストから自然と笑みがこぼれ、その笑顔が働くキャストの凍えた手足を温めてくれる。そんな見えない魔法の成分が、夢のようなクリスマスの世界を創り出しているのでしょうね。
- Vol.58 屋根の切れ目の、見えない境界線 - 2026年11月1日
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- Vol.56 海賊たちの愛した静寂 - 2026年7月1日