夏はやっぱり爽快なアトラクションに乗ってスカッとしたい気持ちが高まりますね。一方で、夏といえば怖い話が盛り上がるシーズンでもあります。東京ディズニーランドにある 「ホーンテッドマンション」 は、そんな背筋がヒヤリとする涼しさを求めて遊びに来られるゲストが沢山います。
見るからに暗くておどろおどろしいこの洋館には、実に999人の幽霊が住んでおり、彼らは千人目の幽霊候補者を探すため、遊びにやってきたゲストを幽霊の世界へ勧誘している、という 〝バックグラウンドストーリー〟 があります。
館に入ると、人間のゲストは 〝ドゥームバギー〟 という真っ黒の乗り物に乗って奥へ奥へと進んでゆきます。すると幽霊たちは歓迎の姿を見せてくれたり、積極的に 〝ここに住まないかい?〟 と呼びかけてきたりしてきます。
幽霊側としてはフレンドリーに接しているのかもしれませんが、その様子がなんとも不気味で、小さなお子様だと夜の暗闇で思い出してしまいそうな雰囲気のアトラクションになっています。
(ドゥームバギーのドゥームが、そもそも 〝運命、とりわけ悲運〟 という意味であることもヒヤリとします。)
ここで働くキャスト達は、幽霊主人に雇われた 「執事とメイド」 という役割です。
雰囲気にピッタリあった素敵な衣装を着ているのですが、その表情は暗く、一切の笑顔を見せてくれません。
理由は簡単で、幽霊=広い意味でご先祖様ですから、まだ生きているような若輩者の人間、しかも使用人が楽しそうに笑顔でいるだなんて、幽霊主人としては看過できないことなのです。なので、彼らはゲストの前でも笑わずに、ただ淡々と無表情に仕事をこなしていくという、ディズニーのテーマパークとしてはなんとも珍しい様子を見ることができます。
このバックグラウンドストーリーと、キャストの役割を知ったとき、 「サービス業に笑顔は必要不可欠」 という、暗黙のルールに疑問を抱きませんでしょうか。もちろん笑顔は大切で、重要な場面が多いのは事実ですが、〝何故必要か?〟 と真剣に問われたら、全員を納得させる明確な回答がないというのが本当のところ。
ちなみに、ホーンテッドマンション以外の施設では、基本的に皆笑顔でいますが、その笑顔のバックグラウンドストーリーは、すべての施設に異なる物語が用意されています。
ディズニーの魔法の成分の中でも、特に面白さと学びの多いバックグラウンドストーリーは、暗黙のルールにすら理由を追求し、徹底した世界観を作り上げ、それが最高のサービスを生み出す源泉になっているということ。これこそ背筋がゾクゾクするようなお話です。
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